ガタンッガタンッ
また椅子を鳴らし始める。
「・・・。ひぃっ。」
大きな黒目がちな目を引ん剥き、次の子はおびえる。小さな悲鳴はまだ小さな女の子のような声だった。
ガタンッガタンッ
「朱鳥くん落ち着いて。」
前野はどうにか落ち着かせようと声をかける。
「あすか、朱鳥くんじゃないんです。あすかは、明香ちゃん、でもないし、朱鳥くん、でもないんです。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。」
力なくか細い声で鳴き叫ぶように訴える少女とかした少年。前野・奈島・滝と吉田までもが顔を向き合わせた。長石明香の中の人格は二つだけではなかった。
「えっと。じゃぁあすかちゃんは朱鳥くんではないんだね。」
「・・・はい。あすかは、朱鳥くん、ではありません。あすかは、しっているけど、明香ちゃん、はあすかの、なか、にいることを、しりません。あすかは、しっています。あすか、の、なか、には、あすか、が『３にん』いることを、しっています。」
中心人格。この目の前でおびえる少女こそが二つの人格をもつあすか自身。
「あすかちゃん。あすかちゃんの名前の漢字を教えてもらってもいいかな？」
「あすかはあすかです。あすかにかんじがあると朱鳥くんも明香ちゃんもあすかのなかにいれません。だからあすかはみんなのあすかです。あすかはあすかです。」
怯えは消えて、気持ちの曲がらない強い意志を持つ目になった。