「明香ちゃん。明香ちゃんはどうして、永遠子さんが嫌いなの。」
「前野さんも知ってるんでしょ?私知ってるもの。母さんには父さんじゃない好きがあるの。」
右上、左下、左上、右下。を二回繰り返して、一回流れるように瞳を廻す。少女の瞳の動きの法則を前野は見つけ、茫然と少女の目を見ていた。
「聞いてる?前野さんも知ってるんでしょ。」
「あ、あぁ。知ってるよ。」
「永遠って名前なのに、永遠がないのね。かわいそうだわ。あぁかわいそう。」
(かわいそうなのは、実の娘に殺されたことだよ・・・。)
心の中でつぶやきまたため息をもらす。煙草が恋しくなってきた。前野は、胸ポケットを探る。
(っち。今日に限って持ってきてねぇのか・・・。)
トントンと肩を叩かれ、そっと後ろを向く。そこには、ため息まじりの奈島。手には煙草とライターを持っていた。それを受け取り火をつける。落ち着くのはなぜだろうか。
「前野さん煙草吸うのね・・・。私知ってるの母さんの好きな人煙草吸うの。いつも洋服煙草の匂いなの。」
煙を目で追っている少女。前野は、小さく『悪い』とつぶやいて灰皿に煙草を押しつける。
「いいの。私父さんも母さんの好きな人も好きだから。永遠に好きとは限らないけど、今好きだから。母さんの名前嫌いなの。永遠じゃないのに永遠だから。母さんはどうして永遠に好きじゃないの。」
と優しそうな笑みを浮かべた。その姿は切なげなただの少女だった。一点を見つめた目ははかなげだった。その時、初めて前野はこの少女はまだ14歳の少女なんだと感じた。
ガタンッガタンッ
(またか・・・。)