20xx年5月24日
某県である事件が起きた。いたって簡単な事件だ。ある一家が殺されたのだ。いや、厳密に言えば二人殺されたのだ。亡くなった妻・長石 永遠子(35)の死因は出血死。夫・長石 聖一(37)の死因はショック死とでた。死体は頭部と胴体を切り離されていた。永遠子の頭部は窓ガラスを突き抜け、庭に転がっていた。胴体にはいくつもの打撲。爪で引っ掻いたような蚯蚓腫れ。粉々にあらゆる方向に曲げられた骨。そして、えぐられた腹。中の臓物はひとつとして原型を持っていなかった。その無残な姿ときたら、元が人間とは思えないほどだった。二人の粉々の腕はそれでも、相手を求めるように握り絞め合っていた。その姿は最後の姿にふさわしかった。
 容疑者は、えぐられた腹の子、娘・長石 明香(14)。そう、最初にあるように、そこ(事件現場)には少女の姿はなかった遺体ですらなかった。荒れた様子のない部屋の様子から強盗ではないとでた結果の結論だ。
 発見者は近所に住む山北夫妻。午後の散歩中庭に転がる永遠子の頭部を見つけ、警察に通報。事件開始からそこまで時間のたっていなかったため、刑事たちは容疑者の逮捕は簡単と見た。が、しかし、その考えが甘かった。その日のうちに容疑者は見つからず、足取りもなく、調査は一気に足を止めたのだった。