お店のｵｰﾌﾟﾝの時間は10時で､それまでに自分のﾍｱﾒｲｸを綺麗にすること｡店内を軽く掃除すること｡昨日売れた商品を補充すること｡ﾚｼﾞのお金を持ってること｡BGMをｾｯﾄすること｡やることはたくさんある｡

店舗に着くと私と同じ早番のﾒﾝﾊﾞｰが何人か揃っていて､それぞれ身支度を整えていた｡なんとなく重苦しい雰囲気を感じとった私は元気よく挨拶をしてみる｡
｢おはようございます!!今日も元気な"かおちゃん"です!｣言い終わると､私はﾊﾞｯｸから鏡とｺﾃを取り出し身支度を始める準備をした｡すると､ﾌｨｯﾃｨﾝｸﾞﾙｰﾑの鏡の前で腰をかけていた商品管理の蘭子さんがこちらを振り向いて少し笑いながら挨拶を返してくれた｡
｢おはよう薫ちゃん｡今日はいつもよりちょっと遅かったね｡ｵｰﾌﾟﾝまで時間ないから急いでね｡｣
天使のような蘭子さんの微笑みにうっとりしつつ､ﾚｼﾞ横の大きな鏡の前に立ってｺﾃが温まるのを待った｡すると…
｢薫ちゃんおはよ!ごめんね､咲ちゃんとﾒｰﾙしてて｡咲ちゃんまた寝坊で遅れるみたい｡｣携帯をいじっていた店長の麻衣さんが申しわけなそうに､でも半分呆れたように私に言った｡
咲さんは今月に入って何度目の遅刻になるんだろう?
麻衣さんも蘭子さんも私と同じように考えているのか､再び重苦しい空気が流れる。ふと首元に一瞬熱さを感じて思わず飛びはねてしまった｡温まったｺﾃで髪の毛を巻いていたら首に触れて火傷をしてしまったのだ｡
｢あ､ああ､熱いー痛いー!あー!｣