「よぉ奈緒。何浮かない顔してんだよ」

何も変わらない様子で隼人が話しかけてきた。

卒業式ということで、みんな正装していた。

奈緒も紺のブレザーにピンクのリボン、赤のチェックのスカートという、ズボンばかりのいつもとは、全然違う格好をしていた。

それでも、そんな自分とは比べものにならないほど、隼人の姿は輝いて見えた。

灰色に近い黒のスーツに、真っ白なネクタイが眩しいほど映えている。

たとえて言うなら子供版ホストだ、と見惚れながら思った。


 隼人を好きだと自覚した奈緒にとって今まで以上に、今までで1番、隼人がかっこよく見えた。


「奈緒、式で泣くなよ」

「…隼人こそ」

「オレが泣くか」


隼人はふっと笑った。

また奈緒の頭をポンッと触り、自分の並ぶ場所に行ってしまった。


(…あーあたし、泣くかもしれない…。バカ隼人、笑ってんじゃねーよ…)

奈緒は目をきゅっと瞑った。