- π PI -【BL】



カチャカチャ……


俺は手首を動かしたけれど、手錠は虚しく乾いた音を立てるだけ。


引っ張っても、手錠の輪の部分が骨にあたって、手首が痛くなるだけ。


プレイ用に用意したって言ってたから、おもちゃみたいなものかと思いきやその重さと質感は、おもちゃにはない迫力があった。


もしかして、これ……ホンモノじゃぁ……


いやいや、ホンモノって、どこで手に入れるんだよ。


でもあいつ妙なところをこだわるヤツだからな。しかもあらゆる方面で顔が利きそうだ。


人に言えないどっかの闇ルートで仕入れてきたのかもしれない。


はぁ…


俺はため息を吐きながら項垂れた。


好きだと自覚したのに―――アイツはやっぱり意味不明で。俺、アイツとうまく付き合っていけるのかな?


今更ながら不安になる。


平凡だった俺の人生に手を振ってさよならしたって言うのに、新しい世界のなんと奥の深いこと―――


って言うかアイツは特別だよな。特別に変態で意味不明だ。


そんなヤツを好きになるなんて―――俺もたいがい変態で意味不明だ―――


そんなことを考えながら、ベッドに体を横たえると、部屋の隅に大き目のスーツケースが置いてあることに気付いた。


前に来たときはあんなスーツケースなかった。


どこか旅行でも行くのかな。それとも出張とか??


いやいやホストクラブ経営の出張ってどんなのよ。


そんなことをぼんやりと考えて―――




俺自身、周が本当はどんな男なのか―――根本的に知らないことに気付いた。