「それはそうと…。ほぅ比奈に新しい男ね…。実に興味深い話だ」
周はちょっと考えるように顎に手をかけ、タバコを口に含んだ。
「しかも相手は同じ会社の経理部の男だよ。それがどうかしたのか?」
「どうもこうもない。これでお前は完全にあの女にフられたってわけだから、心置きなく俺のものにできる」
なんてさらりと言われ、俺は激しく咳き込んだ。
「あんたな!」思わず怒鳴ると、周は、
「周。円…」
「円周率の周だろ?」
うんざりして被せると、周はおもむろに俺を覗き込んできた。
驚いてちょっと身を後退させるも、周は素早く俺の腰を引き寄せて更に覗き込んでくる。
そして俺の顎に手を掛けると、俺の顔をちょっと上に向かせた。
周の切れ長の瞳がまっすぐに俺を捉え―――視線に絡められる。
「知ってるか?円の線には終点がないんだ。それは永遠で常に無限大」
突然真面目に言われて俺は戸惑った。
抗いたいのに、抗えない―――まるで吸い込まれるようなその視線に―――間近で感じる濃密な香りに
不覚にも溺れそうだった。



