ぞわわと鳥肌が立ち、
「勝手にやってろ!」俺は怒鳴りながらも慌てて近くに落ちていた上着を引っつかんだ。
男でもいいって言う変態だけならまだしも、ぬいぐるみ愛好者だったことに更に気持ち悪さが増した。
バサッと音を立てて上着を肩に掛けて出ていこうとすると、チェストの上に置いてあった何かがコトンと音を立てて床に落ちた。
うわ…やっちまった…
慌てて拾い上げると、それは香水だった。
淡い琥珀色をした液体が入った台形のボトル。表面には黒い記号で“π”と書いてある。
「円周率だ。俺様にぴったりだろ?」
ふわりと香りが香ってきて、慌てて顔を上げると周がいつのまにか俺のすぐ後ろに立っていた。
しかも肩に腕回してるし!
「ナルシストのお前にゃぴったりだよ」俺は周を睨み上げて、ついでに香水のボトルもこいつに押し付けてやった。
無理やり腕を引き剥がすと、それと同時に周の香りも遠ざかっていく。
それが何だか無性に名残惜しかった。
―――……な、何考えてるんだ、俺は!
慌てて頭を振るとまだしっかりと残っているアルコールがふらふらと眩暈を起こさせる。
それはアルコールだけではなく、周の纏う香りに―――…眩暈を起こしているんだ。
それでもしっかりと視線を定めると、キっと周を睨みつけ、
「いいか!金輪際俺の近くに纏わりついてみろ?ストーカーで訴えてやる」
ビシッと指を突き立てるもこいつは涼しい顔。
「ほぉ。俺がお前に纏わりついたとでも?ケータイを忘れて、おまけに泥酔したお前を泊めてやった俺様に何の否がある。
このままじゃ警察に行っても取り合ってくれないぜ?
男同士の喧嘩でせいぜい厳重注意か、いって書類送検だ。
それともいいのか?会社にバレても。男に襲われそうになった男性社員って噂されても」
とにやりと笑みを浮かべた。



