帰る頃になって、そこで初めて俺はケータイがないことに気付いた。
あ、あれ??
スーツのポケットや鞄の中を必死にまさぐったけど…
ない!
落とした??でもどこで―――…?
と考えていて、俺は思い出してしまった。
「あ、あいつん家だ!」
な、何で寄りに寄ってあいつの家に……
俺は今朝の変態男を思い出して思わず頭を抱えた。
と、取り返さなければ……
あのケータイには比奈との思い出の写メがたくさん残ってる。
消去しようかと思ったけど、結局できなかった。
俺……ホンっと諦め悪いな……
エレベーターで一階ロビーに降りながら、
「えっと…あいつ何て名前だっけ。確か半径だか直径だか…」
「円周率だ」ふいに近くで男の声が聞こえて、
「そう!円周率!」
思い出して顔を上げると、目の前にはあの変態男がにこにこ立っていた。
な、何故居る―――!!
あまりにも驚きすぎて思わず後ずさりしてしまった。