「さあ、セーラさんのお弁当を食べましょう」
 シュリは馬の背に付けていた包みを取り出し、こちらを振り返る・・・・と次の瞬間、暗闇を切り裂くような音がした。とっさに後ずさるが頬にピリリとした痛みを感じた。
「何・・・?」
 目の前にいるのは見知らぬ男。手には剣が握られ、自分の頬が切られたことに気づく。服装からしてこの国の人ではないようだった。
「ユリ様!」
 シュリが剣を抜き、こちらに走り寄る。けれども私の目の前の見知らぬ男は今にも切りかからんと、すでに剣を構えている。私はふうっと息を吐き、男のすねを蹴り上げた。女だと油断したようだ。うっ、といううめき声を耳にした瞬間、今度は男の腕を払って剣を奪い取った。どこの世界の人間もすねは弁慶の泣き所らしい。
 さらに腹部を蹴り上げ、間をとった。
「シュリ! 早く」
 シュリは私の動きにあっけにとられていたが我に返ると一気に男を剣で貫いた。

「大丈夫ですか」

「・・・殺した・・?」

 目の前に立っていたはずの男がゆっくりと倒れ、水しぶきをあげた。あんなにも美しかった湖が血に染まっていく。
「申し訳ありません。でもあなたの身を守るためですから」
「う、うん」
 自分の体から血が遠のいていくのがわかる。気持ち悪い。そう思った時には世界は暗転していた。