タロウと城門で別れ、城に戻ると一人の若い男が走ってきた。タロウとは違い真っ白な肌をしていて、ブロンドの髪の毛と美しい緑色の瞳が目をひく。腰にさげた剣は彼がタロウとは違い武官であることを示している。
 若者はユリとタロウの前でピタリと止まるとうやうやしく頭を下げた。
「・・ユリ様、おひとりで出掛けてはならないと申し上げたはずですが」
「ひとりじゃないよ、シュリ。タロウも一緒だ」
「タロウ・・・? ああ、ディーンのことですね?」
「さっき別れたんだ。仕事があると言って神殿の方に行った」
「ディーンは神官ですからね。ユリ様の護衛は私の仕事です。次からは私を連れてください」
「いやだ。お前は嫌いだ」
「嫌いでも仕方がありません」
「そういうところが嫌なんだ」
 シュリは若いが王直属の護衛として働く有能な男だとタロウが言っていた。私がこちらの世界に来てからは年が近いという理由で王が私につけたのだそうだ。シュリはタロウと違い堅苦しい敬語で接し、行動をやたらと制限しようとする。ただでさえこちらの暮らしに慣れていない私にシュリの存在は重荷でしかない。
「私、もう部屋に戻るから」
「食事は・・・」
「いらない」
「昨日も食べなかったではありませんか」
「いらないから」
 シュリを振り切り、城を突き進む。城と言っても絵本で見るようなきらびやかな内装ではない。ここは軍事施設としての城で、シュリのような軍人が詰めている場所だ。
本来は同じ砦内の、王族たちの住まいである宮殿で暮らすはずだったがその雰囲気に耐えられず、城にあるシュリの隣の部屋を特別にあててもらっている。それに泣くほど私を待ち望んでいたという王とも何度かしか会ったことがなく、離れて暮らすと伝えた時もあっさり了承されてしまった。
ちなみに城の向いは神官であるタロウがいる神殿、隣には議会がなどが開かれる議事堂がある。

「あら、ユリ様」
 部屋に入るとシュリと同じように王がつけた女官、セーラに声を掛けられた。今年で45歳になるのよ、と言っていたセーラはお母さんにそっくりでタロウ以外に心を許せる数少ない人物だった。セーラは私のスカート見ると優しく裾のほこりをはらいながら、微笑んだ。