私は広いすすき畑の中にいた。一面が黄金色に輝いている。
自分の背と同じくらいの穂が顔を撫ぜ、何となくくすぐったかった。
「ユリ、城に戻るぞ」
 私の後ろにはタロウが立っている。初めて出会った時と同じように白いローブを着ていた。
「いい。ここにいるから」
「お前はいつになったら素直になるのだ? もうここに来て1ヶ月経つのだぞ。俺だって仕事があるのだから、こうしてお前ばかりに構ってはいられないのだ」
「勝手に連れ去った癖に・・・。私はあんたを許していないんだから」
「それは何度も謝っただろう? さあ、帰ろう。王も心配している」
 私は空を見上げた。橙色の空は一日の終わりを告げていた。何でこんなことになったんだろう? 
 ≪こちらの世界≫は古い洋画にある中世ヨーロッパのようだった。このすすき畑は首都にありながらのどかで落ち着いている。特別騒がしくもなく、日に焼けた農夫が歩く姿が時々眼に入るくらいだ。
「ユリ」
「何よ」
 そちらに顔を向ければタロウは困ったような顔をした。
「そんな顔をするな。いつになったら馴れる?ここはお前の故郷なのだ」
「故郷じゃない。だってお父さんもお母さんも・・・ここにはいないんだから」
「だからお前の父親は・・・」
 タロウはそこまで言い、口をつぐんだ。そして、そっと私の手を取り、すすき畑を進んでいく。
「お前はお姫様だから優しくしなくてはいけなかったな」
「何よ、今さら・・・」
 それでも彼の手は暖かくて、私の心を落ち着けた。