が、それを軽々と避け、ふわり天井近くまで体を浮かべ言った。
「お前がいるべき世界はここではない。さあ、帰ろう」
「な、何を言っているの!?」
「俺と帰ろう。皆待っている」
「私は夢をみているの?」
怪しい人間がいただけでも恐ろしいのにそいつはさも当然のように宙を舞う。
茫然としている私に奴は畳み掛けるように言った。
「わかった。お前が決断するまで待とう。それまで俺は意地でも居座ってやる」
そう勝手に断言し、今日まで居候としてここにいる。



 そして今。タロウはしびれを切らしたように言った。
「さあ、ユリ、決心するがいい」
「何よ、偉そうに! 私はあんたの国になんて行かないから」
「国ではない。別の世界だ」
「だったらなおさらよ! あんたが化け物なのはわかっているんだから。宙を浮いたりする人間なんていないのよ。それを「タロウ」だなんて日本人のように名乗ったりして取り入ろうだなんて・・・」
「確かにタロウというのは本名ではない。でも私は気に入っているのだ。今重要なのはそんなことではない。毎日説明している通り、こちらの世界に降る雨は我らが王の涙なのだ。その悲しみを取り除かない限り雨は永遠に降り続くのだぞ」
「だったらもう泣かないように殺してしまえばいいじゃない」
「お前は自分の父親にそのような冷たい言葉をかけるのか? なんと非情なやつなのだ」
「だから私の父親はずっと前からここにいるんだってば!」
「だからそれは間違いなのだ」
「何が間違いなのよ!」
「この強情娘が!」 
タロウは私の腕をとり、窓の桟に足を掛けた。
「ここ2階!」
「大丈夫だ!」
 次の瞬間、体がふわりと浮き・・・目の前は真ッ白になった。