「ここの市場は農産物が中心なんです。だから町の周りは畑に囲まれています」
「そうなの? ふーん・・・」
 市場では多くの人々が買い物をしていた。城で働く人たちのように皆肌も髪も瞳の色もバラバラで、この国は多数の民族が共同で暮らしていることがわかる。様子を眺めていると小さな子供たちが駆け寄ってきた。お目当てはシュリのようだ。
「シュリ様! ごきげんよう!」
「悪い盗賊から町を守ってくれてありがとう!」
「シュリ様!」
 シュリはうれしそうに子供達の頭をなでまわす。シュリはこの辺りの有力貴族で、子供たちにもかなり慕われているらしい。しかし、あの腕で本当に盗賊を退治できたのだろうか?
「シュリ様、そちらの方は?」
 一人のおさげ髪の女の子がこちらを見つめる。シュリに任せると余計なことを言いそうだったので私は身を屈め、彼女に微笑みかけた。
「私はユリ。シュリ様の友人よ」
「ご友人?」
「ええ」
 シュリは何か言いたげだったが何も言わせまいと思いきり睨みつけた。それでも子供たちは私とシュリの関係に興味があるらしく、目をきらきらさせている。
「ついにシュリ様のお相手が決まったかと思ったわ」
「だって女性を連れてこられるなんてはじめてだもの」
「僕だったらこんな美しい方を奥方にしたい」
 美しい、という言葉についドギマギしてしまう。
それにしてもこの町の子供たちはませている。くさいセリフばかりを吐く貴族領主に影響されたのではないだろうか。それともお国柄なのか..?
私があっけに取られているとシュリはくすくす笑い出した。
「この方は私の一生を誓った姫君だよ」
「ちょっ、シュリ!」
 油断した隙にやられた。思いきりシュリの足を踏みつけようとしたがかわされる。
「やっぱりそうなんですね!」
「おめでとうございます、シュリ様」
 話が勝手に進んでいる。それにしてもシュリがそこまで私にこだわる理由がわからない。最初はからかわれているのだと思っていたが・・・。単に私のような男勝りな女が珍しく、興味を持っているだけかもしれない。
 私たちは一通り市場を見学し、城へと戻った