身を屈めるとなるべく音を立てないようにシュリの後ろに回り込む。シュリは私がいないことに気づき、辺りをキョロキョロと見回していた。次の瞬間、強風が一気にすすき畑を撫で上げ、ザザザと音をたてた。
「ゆ、ユリ様!」
私は音に紛れて一気にシュリへ近づくと彼の腰に下げていた剣をすらりと抜いた。シュリが何か言おうと口を開いたところで首筋に剣先をつきつける。
「私はお姫様じゃない」
「・・・ユリ様、正気ですか?」
「正気よ。シュリこそ大丈夫? そんなので騎士なんてお笑い草だよ」
 私の言葉にカッとしたのかシュリは私の腕を払おうと腕を出す、が、それをかわして飛び退くと彼はこちらをギリギリとにらんだ。
「悪ふざけはここまでに」
「本気出してよ! このままじゃ面白くない」
 剣など扱ったことがなかったが構えてみれば意外に手のひらになじんだ。思ったより重くないし扱いやすい。私は思いきり前に踏み込み、シュリに切りかかった。シュリはただそれをかわすだけで額には汗をかいている。ここ数か月、体を全く動かしてなかったせいか動き回るのが気持ちいい。
「ユリ様、あなたは一体・・・!」
「覚悟!」
 刃先を出した瞬間、シュリの首にかけていたネックレスが弾け飛び、ブローチが地面に落ちた。
「どう? シュリ」
「ははっ・・・参りましたよ。本当にすごい方だ。こんなに強い姫君を見たのは初めてです」
「だからお姫様じゃないってば」
「いえ、それでもあなたは私の姫君です」
「わ、私のって・・・」
「昨日誓いましたから」
 一瞬シュリの顔がおだやかになる。
 それに目を奪われた瞬間、剣を取り上げられて腕をつかまれた。
「シュリ!」
「放っておくとあなたはどこかに行ってしまいそうですね・・・いえ、さっきのように襲われるかもしれない」
「もうあんなことしないから手を離して」
「気になさらないでください」
「気にする!」
「あなたと話すとなぜか言い合いになってしまいますね。でも、それも楽しい」
「・・・もう好きにすれば!」
 シュリはにこりと笑い、私の手を引き歩き出す。仕方なくついて行くと畑を抜け、小さな市場に出た。こんなに近くに市場があるだなんて思わなかった。