次の日。
 私は約束通りシュリを連れてすすき畑に来ていた。本当はタロウと一緒がよかったけど秋の収穫祭を前に神官は忙しいのだという。
「ねえ、シュリ。このすすきを部屋に飾ったらいいと思わない?」
「草をですか?」
「まあ・・・草なんだけど」
 草と言ってしまえばおしまいだ。仕方なくススキを刈ることをあきらめる。もうすぐ十五夜だ。こうやってすすきを飾って月を愛でたいと思ってしまうのも自分が日本人という証なのではないのかと思ってしまう。そういえば夜に虫の声を聞いているとセーラは「うるさいですわね」と言ってせっかく開けていた窓をしっかりと閉めてしまった。
 思えばタロウは不思議な男だ。日本に来るやいなや自分を「タロウ」と名づけ、シトシトと降る雨を美しいと称えた。何となく下げていた風鈴にも興味を示していたし・・・そういえば2ヶ月間居座られていたわりに喧嘩もなく、生活になじんでいた気がする。
「ユリ様、あまりうろうろしないで下さい。ススキの背が高くてあなたを見失ってしまいそうです」
 昨夜、あんなに明るく笑っていた男も今では生真面目そうにムスッとしている。どうやらこれは仕事用らしい。
「大丈夫。すぐ近くにいるじゃない」
「ですが」
 シュリの頭の中には昨日のことがあるらしく、朝から片時もそばを離れようとしない。頬の傷は浅かったがシュリとセーラはそれを見る度に悲しそうにする。このくらいの傷、空手の稽古では当たり前だったのに。
「平気。もしも誰かに襲われたって昨日みたいに追い払えるもの」
「昨日は昨日です。あなたはお姫様なのですよ」
「うるさいわね」