「ユリ様・・・」
 知った声が顔に降り注ぐ。瞼を開くと心配そうなみどり色の瞳がこちらを見つめていた。
「・・シュリ?」
「大丈夫ですか? 私の浅はかな行動をお許しください」
「何を言っているの? 私を守ってくれたのに」
 あたりを見渡すとそこは見慣れた場所。私の部屋だった。あれから気を失った私を彼はどうにか連れ帰ってくれたのだろう。
「ユリ様がせっかく楽しげにしていたのに」
「大丈夫。今日はとても楽しかった。次はシュリと出かけるよ」
「ユリ様」
 シュリは私の手を取ると優しく口づけた。驚きのあまり言葉を失っていると彼は視線をこちらに向け言った。
「私の守るべき姫君はあなただけです」
「しゅ、シュリ・・・!」
 顔に血が昇る。そういえばいつか見た中世を舞台にした映画でこんなの見た。お姫様が騎士に一生の忠誠を誓われる。
「馬鹿なこと言わないで」
「馬鹿?」
「軽々しくそんなことを言っちゃだめだよ」
 私はだるい体に鞭打って起き上がり、彼を睨みつけた。けれどもシュリも負けずに睨みかえす。
「軽々しいなんて。私は本心を告げただけですから」
「会ってまだ少ししかたってない。十分軽々しい」
「時間なんて関係ありません。湖でのあなたを見て運命を感じたのです」
シュリのまっすぐな瞳から視線をそらし、わざとらしくため息をついた。
「・・・なんだか疲れた。私はもう眠るからセーラさんを呼んで」
「・・わかりました」
 まだ何か言いたげだったがセーラを呼びにシュリは部屋から出て行った。それを見送ると私は熱をもつ顔を手の平で覆った。馬鹿みたいにくさいセリフだったけど私を戸惑わせるには十分だった。
「姫君か・・・」
 女の子にしては骨ばった手を私はしばらくじっと見つめ続けた。