結局、俺達はあいつを殺さなかった。
いや、殺せなかったという方が正しい……か。
あいつが、数えきれないほどの人を斬ってきた事は一目で分かった。
俺『土方歳三』を含む新選組の幹部と同じ目をしていたから。
まっすぐな目だった。
だが、泣いているように見えたんだ。
俺は自分の身を守るために誰かを斬ることには最初から迷いはなかったが、それでも若い時は人を斬ることに苦悩したもんだ。
だが、それが俺が自分で選んだ道だった。
目指すものがその先にあると信じて突き進んだから、人を殺すことも胸を張ってやってきた。
だが、あいつは違った。
自分が胸を張って進める道を自分で選んでいた訳じゃなかった。
人を殺すことへの苦悩は、そういう立場にいれば、誰しも乗り越えなければならないことだ。
男ならその一言で十分だ。
『藤堂平助』。
新選組の最年少幹部。
平助の時も、あいつが悩んでる事は知っていたが、誰も何も言わなかった。むしろ、突き放した。平助が自分で乗り越えなきゃならねぇことだったからな。
平助も乗り越えたが、平助も武士で男だ。
男でも苦悩することを女のあいつが背負っていた。
それも、自分が選んだわけじゃなく他人に命令されたことで背負うことになったんだ。
本来、女が背負うはずのない苦悩を。
人を殺すことへの苦悩を背負って、ギリギリまで……「死」を望むまでに追い詰められてると感じたから、殺せなかった。