ぐおぉんと、うなる迷惑なベンツは都会の夜景を走り抜けて老舗デパートの入り口に横づけされた。
入り口と言っても地下の入り口で、ホテルみたいにドアマンがいる。
ここがVIP専用の出入り口ってやつか? すげぇー俺はじめて来たぜ。
先に到着していたアウディからは、ゴージャスな毛皮を着たマダムが店に入っていくところだった。
「よし、降りろ」
「は?」
「その服装じゃ、恥ずかしくて連れて歩けないんだよ」
ゼンは、唇を引き上げてニヤっと笑った。そして、そのまま運転席から降りた。
すぐに助手席のドアが開く。
「はやくしろ。時間がない」
腕を掴まれ無理やり車から引きずり降ろされた。訳がわからない。
「なにするつもりだよ。訳を説明し……」
「後でな」
出たよ。完璧に自分中心に世界が動いてると思ってる。
背の高いタキシードの後ろ姿は、さっさと店の中に向かっていく。



