「淳一、お願い。キスしてくれたら、本当の私の正体教えてあげるから」


「本気のキス?」


「うん、いいよ」


 本当の正体があるってことは、今は何か嘘ついてるってわけか。


 俺を騙してるんだよな。


 まあ、今はそんな事は後回しだ。

 夕日に照らされて赤く染まる藍莉の横顔。長い睫毛が恥ずかしそうに下を向く。


「藍莉、目閉じろ」


「わ、わかった」


 藍莉は、素直に目を閉じた。柔らかいその頬に手を添える。





 そして、思いっきりその頬をつねった。




「痛いっ!!!」





 ガタンと椅子を倒して、オープンテラスから外に出る。

 柵を乗り越えて桟橋をダッシュ!



「淳一!!!」


「うるせーバカ! 俺、彼女いるのに好きでもない女にキスできるか! この誘拐魔!」



「淳一のバカーッ!」



 バカで結構!

 ショッピングビルの階段を駆け上がると人混みを掻き分ける。


 急げ!


 運良く地下鉄の駅を見つけて、階段を駆け下りる。


 次捕まったら牢屋だよな。十字張りにされて閉じ込められそうだぜ。
 



 身震いしながら、必死に走った。


 地下鉄がちんたらやってきて飛び乗る。間抜けなドアメロが流れて、俺は苛々した。ゆっくり扉がしまる。




「た……助かった」