「楽しいな。こうして普通に手を繋いでデートショッピング。私、一度でいいからやってみたかったの!」
シャランと手錠が揺れて、藍莉が俺の右腕に絡まる。
三メートル後方には、スキンヘッドとサングラスが目を光らせている。
「全然、普通じゃねーし」
「ランチしてショッピングしたら、午後は映画見ようね。シャパネットガタガタの画多社長の半生を再現したドキュメント映画やってるんだって!」
「それさ、映画館でみなきゃいけない映画かよ? 画多社長の半生なんか、興味ねーよ。どうせ千八百円払うなら、もっと有効に使おうぜ?
ってか、俺は帰りたいけど)
藍莉が二重のくっきりした瞳を丸くした。黒くて艶のある髪は緩く編み込まれている。
「じゃあ、淳一は映画デートで何がみたいの?」
「今すぐ帰りたいけど。
うーん、デートなら“パイキッシュ オブ カレー味 命の泉”とかが定番じゃね? キャプテンジャックスパイスが格好いいよな。
帰りたいけどな!」
「うん、いいよ。それみよう! デートだもん」
藍莉の人形みたいに小さな顔が俺の肩に預けられた。
やべ、これじゃ普通にデート付き合ってるじゃん?
「帰りたいけどな!」
「はあ、私デートしてる。幸せ」
全然聞いてねーし!



