テーブルの上に置かれた“びっくりっぱこ”。
ふざけた名前で、ヨーロピアンテーストな立派な宝石箱をイメージしたイミテーション。
「これ、オモチャね。ケチくさい商売してんのね」
藍莉は埋め込まれた偽エメラルドを指でトントンと叩いた。
「当たり前だろ、手品グッズに本物のエメラルドを使う奴がいるかよ!」
「ふーん。どうせバネの仕掛けが飛び出してくるだけでしょ?」
藍莉が箱を開く。それと同時に柔らかなオルゴールが流れた。
この箱は、クルミ割り人形バージョンか。
曲は全部で三曲。これ以外に、アベマリア、メヌエット。
この曲を決めるのに、ジャズ派のゼンとクラシック派の内藤部長でかなり揉めた。
結局、ジャズ調のクラシック曲で決まった。
「ねえ、どこがびっくりなの? 全然びっくりしない」
藍莉は、人形みたいな小さい顔をびっくりっぱこに近づけた。
あーあ、近づけないほうが……
「キャーーーッ!」



