「でも、抱いちゃうし!」
運転席のゼンが俺の上に折り重なる。
「うわっ!」
ゼンの腕が俺の首に絡まって、一瞬で抱きしめられていた。
「気色わるいことすんなっ!」
ゼンは無言で強く俺を抱き締める。
高そうな香水の匂いがする。
少し癖のある柔らかい髪で顔は隠れている。
男に抱きしめられて、嬉しいわけなんてない。
「ありがとうな……」
聞こえるか聞こえないかギリギリの小さな声……
なんか、少しだけ、ゼンに抱かれたがる女の気持ちがわかった……
あの徳田善太郎が、今、自分だけを抱きしめているっていう何ともいえない優越感があるんだ。



