暗闇で声が聞こえる──

「おまえの愛しい相手は誰だ?」

 その声は、低く深淵からじわりじわりと這い寄るように精神を蝕んでいく。

 足は暗闇に張り付いているのか、少しも動く事はなく言いしれぬ重たい闇の中に目を凝らす。

 さらに声は、

「手に入れたいだろう? 力を手にすれば、そいつはおまえのものになる」

 声は次第に大きくなり、言い切った刹那に腕を掴まれる。

「うわあっ!?」

 心臓が飛び出るかと思うくらいに驚いて飛び起きた。

「……夢か」

 ほっと胸をなで下ろすが、寝間着は汗でぐっしょりと濡れていた。

 心の最奥、自分でも踏み入れられない領域に入り込まれる恐怖が体から体温を奪う。