「はあ~、びっくりした」

 勇介は消えた気配にホッとして疲れたようにソファに背中を預ける。

 仕事に行く気にもなれず、また会社を休んだのだった。

「そういや、あいつデイトリアスって」

 翻訳の仕事を始めた彼に視線を移す。

「人間としての名はデイトリアスと言うのでね。私の正体を知っているのは、この世界ではエルミくらいだろう」

「魔物はデイが人間じゃないって知らないのか」

 そういえばデイはこの世界の人じゃないってエルミが言っていたけど、俺を守ってもらうために彼女が呼び寄せたんだっけ。

 勇介はテレビを見ながらデイトリアを一瞥した。

 いつものデイ、いつものひととき。

 ルーインをひるませたあの表情は、もうどこにもなかった。

 しかし、あの強烈な存在感は頭から離れてはくれない。