「……うそ」

 たった今見た光景が夢なのではと思うほどに鮮やかだった。

 デイトリアがゆっくり全身に力を込めたかと思うと、目が追いつかない速さで腕が振られ魔物が引き裂かれたのだ。

 閃光のように動く彼の姿は、優雅でしなやかな猫科の猛獣──「豹」のようだった。

 そうか、だから「黒豹」なのか。

 勇介はこの状況で妙に落ち着いて納得した。

[グウ──]

 魔物たちは眼前に転がる仲間の死体と、デイトリアの強さに悔しげな声を低くあげる。

「去るがいい」

 一蹴されて苦々しい唸りを上げながら音もなく魔物たちは姿を消していく。

「あ、戻った?」

 黒い空間が晴れるとまだ夕刻らしく、仕事帰りの会社員が帰路を急いでいた。

 勇介が腕時計を見やると長い針はあまり進んでおらず、ほんの数分の出来事だったと窺えた。