魔王は無表情に男を見つめているが、その瞳の奥底に少しの怒りが見て取れた。

 それは煽られたことよりも、キャステルがデイトリアのことをよく知るように発したからだろう。

<感情を持つ者は成長し、変化するものだ。この私のように>

「そうでしょうか。彼はすでにそこに行き着いた者かも知れませんよ」

 互いに視線を合わせ、しばらく沈黙が続いた。魔王は短く溜息を吐き出すと、落ち着いている男をじとりと見下ろす。

<自問自答している気分だ。終わらない会話は虚しい>

「そうですね、あなたの意向はわかりました。我々も準備をします」

 目を伏せたあと、消えかけている幻影に再び視線を向ける。

「今の会話が自問自答だと思ったのなら、まだあなたの心は──」

 魔王の幻影はそれには応えず、キャステルを一瞥すると速やかにかき消えた。