そうやって諦めようと頭を力なく横に振った。

 その視界にふと、小さな看板が目に留まる。

 あんな処にバー?

 昨日もここを通ったが、見過ごしていたのだろうか?

 その裏路地に見慣れない店があった。

 光る看板には『Gabe-ガーベ-』と書かれている。

 扉は美しい彫刻が施されていて、無意識にその取っ手に手をかけていた。

 心地よいドアベルの音と共に視界を満たす店内は悪くない雰囲気だ。

 向かって左手のカウンター内のマスターが静かに会釈する。

 白髪の交じる髪を丁寧にアップしてぴしりと整ったバーテンダーの服に身を包む姿は紳士的に映る。

 不思議な音楽が空間を満たし男の緊張感を和らげてゆく。

 男は店内を少し見回すとカウンターのイスに腰掛けた。