「人ではない事くらい解っていただろうに」

 この時代において魔法はもはや人に使えるものではなくなっている。

 その術は継承される事もなく、数少ない紙の上にしか存在しない。

 デイトリアは人にあらずと知っているはずのマリレーヌも完全にはそれを信じていなかったのかもしれない。

「覚えてらっしゃい」

 相手を過小評価していた事に苛立ち混じりの舌打ちをして消えた。

「え、あの……」

 久住はマリレーヌが消えた事を確認して遠ざかるデイトリアに戸惑いつつも呼び止めた。

「力を一度に解放して疲れた。少し休む」

「あ、ああ。そうだな」

 見た目では疲れた様子はまるで感じられないが、宿舎に向かって遠ざかる背中を無言で見送る。

 目の当たりにしたすさまじいまでの力に久住はデイトリアは本当に人ではないのだと実感した。