「悩んでいる場合かね」

 ふいに、ピンと張り詰めた声に伏せていた顔を上げる。

「私情を挟んでいる状況ではなかろう」

 確かにそうだ。

 意を決して受話器を取るも、ボタンを押す事が出来ない。

「わかってるよ、わかってる。自分が何をするためにこの世界に入ったのかくらい。この力に目覚めた時はどうしていいかわからなかったけど……。キャステルに出会って俺はああ、こんな人になりたいって思った」

「そのキャステルを信用できないのか」

「そんなことないよ」

「ならば報告すれば良い」

「あ──」

 促されて再び受話器を見つめる。