──勇介の元マンション。

 人間界は未だ驚異に直面していない。

 通学中の学生たちが行き交う笑い声と車の音、足早に会社に向かう者の靴音が外を賑わせていた。

「醤油が無い」

 朝食の用意をしていたデイが困ったように口を開いた。

「昨日買うつもりがすっかり忘れていた」

「じゃあ、俺がちょっと買ってくるよ。コンビニが近くにあったでしょ」

 久住はソファから立ち上がり、嬉しそうに玄関に向かう。

「すまんな」

「いいって、いいって」

 久住を玄関で見送ったあと、遠ざかる足音を確認して表情を険しくさせリビングに戻る。