デイトリアは、かつては人間であり今は魔王になった男がいた部屋のソファに腰を掛けコーヒーを飲んでいた。

 しなやかに揺れる黒髪と、ガーネットのような赤い瞳からは感情を窺い知る事はできない。

 今後をどうするかと小さく溜息を吐く。今はただキャステルからの連絡を待つ他はない。

 そのとき、

『やあ、本当に通信できるんだね。これ』

 頭に響いてきた声に眉を寄せた。

「勇介」

『久しぶりだね。わたしの今の名前はガデスというんだ、覚えておいてくれ。君から渡されたペンダントのことを思い出して試してみたくなったんだよ』

 その物言いは今までの勇介とは明らかに違っていた。

 自分の置かれた立場に戸惑い、うろたえていた立木勇介の面影は消え、どこかしら優越感を放ちつつ相手を小馬鹿にしたような口調だ。