安浦の怒りが伝わってくる。


その時、松田と目が合った。


「………前田先生。」


俺を呼ぶ松田の声に、
はっ、となった。
思わず見続けてしまった。



「…………帰るっ!!!」


安浦は俺を見て、泣きそうな
顔をしながら教室を走って
出ていった。


松田は冷静な顔をしている。


「…先生さ。黙って見てる
なんて趣味悪いんじゃない?」


「悪かったな。入れる空気じゃ
なかったから…………」



これは、なにがあったか
聞いてもいいのだろうか。


「聞きたいんでしょ?
あたしたちになにがあったか。」

ドキッとした。
松田はいつだって冷静だ。

嘘はつけない。



「…あぁ。別に言いたくない
なら無理には聞かないけど。」


「じゃあ言わない。」


松田はカバンをもって、
俺の前を通り過ぎた。


ドアの前に立った松田が、
ふりかえった。



「先生。興味本位だけじゃ
生徒は心開かないよ?」


振り向き様に弱そうな微笑み。


彼女はそう言ってさっていった。



俺はたっていた。
ただ黙って、立っていた。


何も考えられずに、
その場に立っていた。