それでも、まだ。



しかし予想に反し、老人は何も言わずに笑っていた。


『ヒッヒッヒッヒッ。やはり大切な人だったようじゃのう。』


何なんだろう。
この人はとても楽しんでいるように見える。


…怖いし、早く帰りたい。



でも――…。




『あなたは結菜の何を知っているんですか?』




もし結菜のことを本当に知っているのなら、知りたい。会いたい。



――そう思ってしまった。




『ヒッヒッヒッ。わしは何も知らん。』


『え………?』


老人の思わぬ返事に、神田は間が抜けた声を上げた。老人は構わずに続けた。



『じゃが、機会を与えることは出来る。』


老人は、マントの中から杖らしきものを取り出した。


『機会………?』



『そうじゃ。二人の運命の一部、をな。』



―――トンッ



そう言って杖で私の左胸をつついた。



『どういう…ことですか?』


神田は呆然と老人の動きを見ながら静かに尋ねた。


すると不意に老人は絶やしていた笑みを消した。


『二人の間が本物ならば、運命は再び交じり合う。しかし、そうでないならば、運命は残酷に引き離す。』


『………?』



『ヒッヒッヒッ。今は分からんでいいんじゃ。直に分かる。』



『はぁ……。というか、その機会っていうのは、いつ与えてくれるんですか?』



『何を言っておる。もう始まっておる。』




『何言って…』
―――ドクンッ


『―――っ!?』



『ほらほら、始まった。』




――ドクンッドクンッ



クラクラする。神田はうまく立っていられなくなって膝が震えた。


老人は腕を離し、その拍子に神田は膝から崩れた。



『…お嬢さん、あなたのいいところは信じれることじゃ。それを忘れるでないぞ。』


老人はしゃがみ込み、神田と目線の高さを揃えて神田に言い聞かせるように言った。


なんで、とは聞けなかった。


朦朧とした意識の中、老人の言葉が耳に纏わり付くような気持ちになりながら、私は意識を手放した――…。






『さぁ……。楽しみはこれからじゃぞ、お嬢さん。』



老人がそう呟いて、立ち上がり姿を消したことも知らずに…。