『あ、ありがとう、ございます…。』
なんとかお礼を言って、直ぐにその場を離れようとした。
――が。
『あ、あの……?』
老人の手は、私の腕を離さない。
というか、腕を少しも動かせない。
『も、もう大丈夫なんで、腕を離してくれませんか…?』
改めて老人を見ると、老人は随分と小柄である。神田も身長はそれ程高くはない方だが、老人の方が幾分小さい。
老人は、またニヤリと笑い、腕を掴んだまま口を開いた。
『いやいや、まだ話は終わっておらんよ、お嬢さん。』
『は、話って……?』
神田は恐る恐る尋ねた。
『おや、忘れてしまったのかい?お嬢さんは、友人にもう一度会いたいんじゃろう?大事な人だったんだろう?』
『…………!』
神田は目を見開いた。
――やっぱり、あの声は、この老人のものだったんだ。
どうして?
どうして分かるの?
それに会いたくてももう結菜には会えないのに……。
何も言えなくなり、戸惑った表情をした神田に、老人はますます笑みを深めた。
『ヒッヒッヒッヒッ。まあそんなに怖がらんでよい。本当に、会いたくないのかい?』
『…あ、会いたいです!…でも、結菜は死んだんです。会えるわけないじゃないですか……。』
言ってしまって、神田は後悔した。
老人が気を悪くしてしまったかもしれない。
まだ腕は離してもらってないし、もしかしたら何かされるかもしれない。
……ええい!
もういいんだ!!
言ってしまうんだ!真理!!
『……だいたい、さっきから何なんですか?結菜に会いたい?、会いたい?って。見ず知らずのあなたに何か出来るんですか!?』
神田は半ば叫んでいた。
…自分と結菜の間を知っているように話されるのがいやだったのかもしれない。
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