それでも、まだ。



1人残された神田は、料理を再開した。


『ん…いい感じに出来てきたかな?』


味見をしながら味を整えていき、しばらくすると後ろから声が聞こえた。



『いい香りだね。私にも味見させておくれよ。』


レンでもジルでもない独特な話し方に驚いて振り向くと、そこには黒い服に身を纏った女性が椅子に座っていた。



『え?…ど、どなたですか?』


『相手に物事を聞くときはまず自分から、だろう?』


女性は微かに微笑んだ。



『す、すいません。私の名前は、神田真理です。』


有無を言わせない女性のオーラに圧倒されつつも、私はなんとか返事をした。



『神田真理…。じゃあお前が昨日やって来た子かい?』


『は、はい。』



女性は立ち上がり、神田の方に近付いた。



『へぇ、可愛い顔をしてるじゃないか。…私の名前はマダム。この組織の幹部の一人さ。』


神田の顔を覗き込むようにマダムは言った。


『マ、ダムさん……。』



この女性も幹部なのか。

というか、どうやってこの部屋に入ったのだろうか。少なくとも、さっきレンとジルが出ていったときは自分は1人だったはずだ。



難しい顔をしていたのだろうか、マダムは少し困ったように笑った。


『そんな顔をしないでおくれ。私の仕事上、気配を消すくらい朝飯前さ。あとマダムでいいよ。』




マダムの言葉に、神田は引っかかりを感じた。


マダムがこの組織の幹部なら、仕事は武器を扱うことのはずだ。


…でもその仕事に気配を消すことなんて必要だろうか?



『…マダム、どうして気配を消す必要があるんですか?』


神田は鼓動がだんだんと速くなるのを感じながらも、ゆっくりと尋ねた。


『どうしてって…。そりゃあ、相手に気づかれないようにするためだろうねぇ。』



『…マダム、マダムたちの仕事は、武器を扱うことですよね?』



とても嫌な予感がした。



『何言ってるんだい?まあ、殺し屋には武器が不可欠かねぇ。』


『こ、殺し屋…!?』



その瞬間、私は一気に血の気が
引いていくのを感じた。