レンは部屋に入って、事の全てをアヴィルに話した。



部屋の窓から見える外は相変わらず暗いが月が辺りを明るく照らしていた。



『…その話は本当か?』


アヴィルは腕を組みながらレンに聞き直した。



『うーん、多分本当ですよ。』


レンはアヴィルが煎れてくれたコーヒーに砂糖をたっぷりと入れながら答えた。


『多分って…。根拠はあんのか。…お前、そんなに砂糖入れておいしいか?』


アヴィルはまた顔をしかめた。


『根拠はないんですけどね。…この甘さがコーヒーを引き立てるんですよ。』


『なら嘘かもしんねぇだろ。…もはやコーヒーじゃねぇだろそれ。』


アヴィルは溜め息をついた。



『そうですけど…。あの子が嘘つけるように見えなかったし、セシアもあの子を見て少し興味を持ってたんですよ。』


レンはコーヒーを一口飲んだ。


『…それだけじゃ理由にならねぇぞ。』



『でもアヴィルさん、考えてみてくださいよ。偶然にしてはうまくいきすぎてません?セシアもあの子も。漆黒の森に丸腰で入ったら普通は生きて出られない。ましてや、誰かと会うことなんてまず不可能ですよ?』



レンはコーヒーを置き、アヴィルをじっと見つめながら言った。



『…あの老人ならそれが出来る、か……。』


『はい。それに、』


『あ?』



『あの子はこの世界を何も知らない人間でしたから。』



レンがニッコリと笑って言うと、アヴィルも嘲笑した。



『…そんな人間が来るのは久しぶりだな。』


『でしょう?』



アヴィルは煙草を取り出し、火をつけた。…アヴィルの考え事をするときの癖だ。


レンはクスリと笑うと、再びコーヒーを飲み込んだ。