『………はあ。』
レンと呼ばれる人は諦めたのか、神田の方を振り返った。
『ねぇ、君。』
『――!』
『君は、何者?どうしてあんなところにいたの?』
男は真っ直ぐに神田を見て言った。その眼から、敵意は感じられない。
『えっと、その……。』
なんて話せばよいのだろいか。
というか、自分でも信じられない状況にいるのに、正直に話して信じてもらえるのだろうか。
『…とりあえず話してよ。それ聞いてから考えるからさ。』
そんな神田を見兼ねたのか、レンと呼ばれる人は優しく言った。
『……はい。…私の名前は神田真理です。それで、その……。』
そのとき、手当が終わったのか、クールさんは立ち上がった。
『…一時はこれでいいだろう。』
『あ、ありがとうございます!えっと…?』
『…?…ああ、俺はジルだ。』
『…!ジルさん、ありがとうございます!』
そう私が笑って言うと、ジルは驚いた顔をしたが、そのあと少し笑った。
『………ああ。』
あ、この人もちゃんと笑うんだと思ったのもつかの間。
『………へぇ〜。ていうか、ちょっと!僕の話聞いてる?』
2人のやり取りを意味ありげに見ていたレンと呼ばれる人が不機嫌そうに話しかけてきた。
『す、すいませんっ!』
慌てて向き直った。
『…まあいいや。僕も名乗ってなかったしね。僕はレンだよ。そして、この子がセシア。』
セシアと呼ばれた人をちらっと見ると、ちょうど向こうもこちらを見ていて、目が合った。
やはり、冷たい眼で神田を見つめていた。
しかし、神田はこの眼を知っていた。
それは神田と結菜が初めて会ったときに見た眼と、まったく一緒なのだ。
警戒し、神田を、そして真意を調べているかのような。
そしてそれはセシア、もとい結菜は、神田のことを全く覚えていない――…
そう、意味しているのだ。
神田は思った。
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