それでも、まだ。



『……な、んで…?』


女は自分を見て、ひどく驚いていた。



だが、セシアにはなぜそんなに驚かれたのかが分からない。


この女に、自分は会ったことがあるだろうか?


勿論記憶がないため、全然覚えていないのだが――…。


でも、この胸に湧く感情は何であろうか。まるで――…



―――グルルルル



『!』



熊が後ろで動く気配がしたため振り向き、刀を抜いて構えた。




『ね、ねぇっ!』



女が自分に話しかけてきた。



『………?』



熊を警戒しつつ女を横目で見ると、女は言いにくそうだったが、はっきりと言った。



『あなたは結菜…なの?』




――結菜


その名を聞いたとき、更に妙な感情が沸き上がってきた。



『…違う。』



『―――!』



そう言って、熊に向き直り、刀を強く握った。




―この感情を、思い出したくなかった。


自分の心に溶け込んでくるような、この声を。