それでも、まだ。



…パタパタ…


相変わらず薄暗い空間の中、神田の足音だけが響き渡っている。


周りは、怖いほどに静かである。



『誰もいないのかな…?』


今は、時間でいうと午後三時ごろである。いないならいない方がいいのだが。


階段は、この階の書斎の横にあり、そこに辿り着くためにはこの幹部フロアを横切らなければならない。


そのためもし見つかってもうまく誤魔化せるように荷物もコンパクトにしていたのだが…。


『早く行っちゃおう…。』



そして足早に、でも慎重に階段まで辿り着くと、神田は深呼吸をした。



『……っ』



階段の先は暗く、背後からの風が階段の下まで吸い込まれていっていて、神田は思わず身震いをした。



ゴクリと喉を鳴らすと、神田は恐る恐る階段へ足を踏み出そうとした。






ーーーーが。


『…………にゃん。』



『…きゃああ!』


足元に擦り寄ってきた存在に、神田は思わず悲鳴をあげてしまった。



慌てて口を手で抑えて周りを見渡したが、暫く時間が経っても誰も来ず、ほっと肩を下ろし、足元に視線を落とした。



『し、シロ……。無事だったんだね…!』



事件後、姿が見えなかった白猫が、神田の足元で座ってこちらを見上げていた。



『クロはいないの?』


しゃがみ込んでシロを撫でると、シロはゴロゴロと喉を鳴らした。



『………ん?』


ふとシロの足を見ると、白いはずの前足が、赤黒くなっていた。



『……大変!怪我してる!』



神田は直ぐにバックから消毒液と包帯を取り出すと、シロの前足を掴もうとした。



『にゃっ!』



しかし、シロは触られたくないのか、するりと神田の手から逃げた。


『あっ、シロ…!』



神田はなんとか捕まえようとしたが、シロの機敏な動きには敵わず、シロはそのまま扉の隙間から書斎へと入っていった。



『…手当てはちゃんとしなきゃだしな…。』



急ぎたい気持ちは山々だったが、神田はシロの手当をするべく、後に続いて書斎に静かに入っていった。