それでも、まだ。



『おや、現れたのではなかったのですか?』


老人はセシアの反応に驚いたように顔を上げたが、またすぐに作業に戻った。



『オレンジ頭のペトラルカに、金髪男リーヤ、そしてボスであるシーホーク。…恐ろしい奴らが一気に今日現れたと聞いたんですがねぇ…。』



『あ、あぁ、そうだ。すまない、まだ頭がよく回らないんで…。』


確認するように語る老人にとっさにセシアは耳に入ってきた人名に動揺しつつ合わせると、老人は納得したように微笑んだので、セシアはホッと胸を撫で下ろした。



『…皆さん、大した怪我もなされず本当によかった。ベルガさんもセシアさんと同じように怪我してしまいましたが。』



セシアがその言葉に体を固くすると、老人は優しく笑った。



『命に別状はありません、安心して下さい。』


『そ、そうか……。』



セシアが力を抜くと、老人は作業が終わったのか、カルテを持ってベッドの方へ近づいた。



『では、幹部の方を誰か呼んできます。安静にしていて下さいね。』



そう言ってぺこりと白髪頭を下げると、扉の方へ歩いていった。



『まったく……。黒組織は滅びたと聞いていたのにですなぁ。やはり、3ヶ月前の漆黒の森での事件も、奴らの仕業かもしれませんな。』



ブツブツ言いながら出ていった老人に、セシアは顔を顰めた。



『3ヶ月前の事件……?』



その時期はちょうど自分が記憶をなくした頃だ。


ーー…そして、神田がこの世界にきたとき、レンが教えてくれなかった漆黒の森での事件。


もしかしたら、どちらも同じ事件のことを表しているのかもしれない。記憶喪失とも関係しているのであろうか。


そして黒組織の存在とリーヤを見たときに流れた感情。



『……ダメだ、情報が少なすぎるな……。』


まだそうと決まった訳ではない。


ーーそれと、疑問に思うことがもう一つ。



『どうして、私の記憶がなくなったことを知らないんだ……?』



あの老人が医者なら、自分が記憶喪失になったとき、診てもらったのではないのだろうか。別の医者がいたのか?



セシアは再びベッドに沈んだ。



『全然分からないな…。』



しかし、自分に隠したいことがあるのは確かだ。そして、それが3ヶ月前の事件であることも。


セシアは頭が痛くなった。


……とりあえず幹部が来るまで休んでおこう。



そう思い目を閉じたセシアの意識は、だんだんと遠のいていった。