それでも、まだ。



自分が記憶をなくしてから3ヶ月が経った。


普通に過ごしていればいつか戻るだろうと思っていた。


しかし記憶は一向に戻らない。



それどころか、仕事の仕方も最初はすべて忘れてしまっていた。


仕事に対する抵抗感もとても大きかった。


…本当に自分は、この仕事をしていたのかと思うくらいに。




『セシア。』


名前を呼ばれて、振り返った。


『……レンさん。ジルさんも。』



そこには2人の男が立っていた。


『セシア、もう仕事終わったの?だいぶ慣れてきたんじゃない?』


レンは笑いながら言った。



『……そうだな。だいぶやり方に無駄がなくなってきている。』


ジルもそう言いながら私の仕事の後を観察していた。



この2人は、私の上司的存在だ。


記憶をなくしたときから傍にいた、の方が正しいのかもしれない。

この世界のこと、仕事のこと…、一から丁寧に、そしてセシアに無理をさせないように教えてくれたのは主にこの2人だった。



『まぁ、だいぶ慣れましたよ。……抵抗はまだありますが。』



『…そっか。ま、きついならまだそんなに無理しなくていいからね?ジルにさせればいいし。』


『……おい、レン。』


『ん?何?』


『……何故俺だ。』


『え?そんなの、僕が面倒くさいからに決まってるじゃない。』


『………あのな…。』


『大丈夫だよ〜。ジルならうまく出来るって!』


『そういう問題じゃないんだが……。』


『まあまあ、そんなことは置いといて、せっかくみんな仕事も終わったんだし、早く帰ろうよ。ね、セシア。』


『そこで私に振られても…。』


『ハァー、ジルもセシアも固いなぁ、まったく。ほら、行くよー!』



セシアとジルは、お互い顔を見合わせ、苦笑しながら先に行くレンの後を追った。