那智の動きが止まったのを・・・志高は見逃さなかった。



那智の視線の先には・・・・葛城龍がいる。



龍も他の者が目に入らんとばかりに那智を見ている。



(な・・・・ん・・・・で・・・龍が・・いるの・・?)


那智が龍といた頃、龍は葛城家当主に宴に顔を出せと言われても、いつも断っていた。



その龍が・・・今ここにいる。


那智が正妃になったこの場所に・・・。



「那智華。誰か知り合いでもいたか?」



分かっているのに志高は声をかける。



その声で自分がどこにいるのか思い出したのか、那智は志高に向き直る。


「いえ・・・人が多いなと見ていただけです」



驚いているはずだが、那智は顔を全く変えない。



志高も泣きながら龍の名前を呼ぶところを見なければ・・・那智の様子に気付かなかっただろう。



「今から那智華の父と兄が挨拶にくるぞ」


華族の位順に、挨拶と言う名の王へのご機嫌伺いが始まる。



有栖川家からしたらどうでも良い事だが、位が低い家の者からしたら、この場で王に気に入られようと一生懸命だ。