「なんだ?」



それだけ言うと那智の続きを待っている。



「あの・・・柚那には本当の事を・・・伝えても?」



恐らく噂はすぐに柚那の元に届くだろう。



その柚那から文が届くのは目に見えている。できれば柚那には本当の事を話したい。



一瞬志高は、柚那から那智の思い人に伝えてほしいからではないのか?と思ったが口には出さなかった。


那智の様子から見ても、純粋に柚那に知らせておきたいと言うのが見て取れた為でもある。



「好きにしろ。ただ他言せぬようには言っておけ」



那智から聞く限り、柚那が他言しない事は分かっていた。


しかし志高は言わずにはいられなかった。・・・・那智の思い人には知られたくない。



無意識にうちにそう考えたのだ。



「ありがとうございます。良かった」



志高の気持ちなど知らない那智は、無邪気に喜んでいる。



志高も志高で那智の喜ぶ姿に、笑みがこぼれる。


志高は自分が今笑っている事にも気付いていないだろう。




那智と志高が仲良く過ごして居る所へ、女官たちが慌ただしく朝餉の準備をし戻ってくる音が聞こえた。



志高の顔から笑顔が消えた事が、那智は少しだけ寂しかった。