双華姫～王の寵姫～

「返してください！」




那智は急いで王から文を取り戻す。那智の目には涙が溜まっていた。




「帰りたいです。ここにいても・・・・毎日毎日ただ殺されるために過ごしているようなものです・・・私がいてもいなくても、ここは何も変わらず過ぎてゆくことでしょう・・・」




でも帰れぬのでしょう？と那智は初めて王に寂しげな顔を向ける。





王に言っても仕方ないと分かっているのに、那智は止まらなかった。





「王・・・私は有栖川那智として生きるのに執着はしていません。殺されて終われるならそれも良いのではないかと・・・そう思ってしまうのです。けれど・・・那智を愛してくれる人たちはそうしたら悲しむでしょう・・・だから私は死ぬわけにはいかないのです・・けれど生きるのが辛い・・・」





泣いていると思った那智は泣いてはいなかった。




人形のようで、悲しげな思いのある瞳は、那智の髪の色と同じ黒い色をしている・・・まるで那智の心の中の色のようだった。





王は何も言わず那智を見つめている。嫌・・・何も言えなかったのだ。




毒の扱いにうまく、刺客がどれほど送られてきても飄々と対応している。他の姫達に嫌がらせを受けても受け流せる強さがある。





その那智がここまで弱っていることに王は気が付かなった。




「王・・・私は・・・必要ですか？」




あなたにとって・・・この国にとって・・・そう聞かれた気がした。



王は少し考えた後ポツリと言った。


「私の名前は長い」


全く違う答えが返ってきたことに那智は少なからず驚く。



「はぁ・・・そうですか」




心の中を吐きだした為か、言葉遣いが那智に戻っていることに那智は気付かない。