「気をつけてくださりませ。何かあれば柚那姫様や御当主が悲しまれます」




自分では那智を助ける事はできない。それを分かっている美沙は柚那の名前を出す。




那智も柚那を悲しませるような事はしないだろう。



「分かっている」



悲しそうに微笑む那智に今度こそ美沙は何も言えなくなる。



「では…行くとするか」




そう言って立ち上がった那智は美沙の愛する那智ではなく、人形の顔をした有栖川の姫になっていた。





黒い長い髪に、雪のように白い肌、その肌に赤い紅がよく映えている。


髪には柚那とお揃いの簪が一つだけついていて、派手さはないが、那智の雰囲気によく合っている。





後宮で一番綺麗な姫はと聞かれれば10人中10人が那智だと答えるだろう。




何にも例えられないその美しさだが…目だけは人形のように感情をうつしていなかった。




華の丸へと歩いていると数人の女官とすれ違った。




他の姫達と違い、感情は感じられないものの無理難題を言ってこない那智は女官達に人気があった。