双華姫~王の寵姫~

「王の姫に申し訳ないですが、私にとって那智姫様は淡い初恋だったのです」




心から申し訳なさそうに話す幸也を眩しそうに王は見る。




「昔の事だ。気にはせぬ。それに余は有栖川の姫とは何もないからな」




娶った以上何もないのは駄目だろうと幸也は思ったが、初恋の姫を思えばどこかでホッとする幸也がいた。




「今夜は泉ノ宮の姫のところに行く。政務も終わったところだ。このまま行くから今日はもう下がれ」




王はそう言うと部屋を出て行った。





残された幸也は王が消えて行った後宮の方を何とも言えない瞳で見ていた。




王が泉ノ宮の姫紗里の元に行くと、紗里は王を笑顔で迎え入れた。




この後宮では見慣れた笑顔がそこにはある。そう。見慣れた作り笑いだ。



「主上。本日は私の元に来て頂き誠にありがとうございます」




咲き誇る薔薇のように笑う紗里は、那智が来るまでは後宮の華と例えられていた。



華族第二の位という事もあり、次期正妃と言われ後宮の栄誉を欲しいままにしていた女だ。



那智が来た事を喜んでいないのは態度の端々から感じられる。



何も言わず酒を飲む王に慣れている紗里は、王の顔色を伺いながら話始める。



「主上…相談があるのです…」


目を伏せ話す姿は王以外の者が見れば、心を奪われるかもしれないくらいの色気と切なさを醸し出している。


王が顔を上げると、涙の溜まった紗里と目があった。目だけで続きを促すと紗里は涙を流し続けた。



「最近毒が塗られた物がよく送られてくるのです…」