しばらくして、彼は私の口から手を離してくれた。
「.....あの、取り敢えず、私本返しますね。」
手続きには複雑なパソコン操作がいるんだけれど、そこは、去年図書委員だったこともあって、なんとかできた。
まだ床に胡坐をかいて座っている彼は、そんな私を見て.....
「そういえば、その本、何の本なわけ?」
初めてあった人への最初の質問ではないような気がしたけれど。
「これ、最近映画化もされた、感動作なんです。」
そう言いながら、私は彼の本の表紙を見せる。
そしたら彼は、自分から聞いたくせに、興味もなさそうに、
「ふーん.....」
と、どこか宙を見ながら答える。
「....あ、あの?どうかしたんですか?」
「...いや。別に...。それよか、その敬語、やめてくれよな。タメなんだから。」
「えっ....。同級生...?」
驚いた。
その堂々とした態度といい、禁止されているはずなのに図書室に入り浸っている今といい...。
彼から感じられる、その...何とも言えない余裕は、年上にしか感じられなかったのだ。
「えっ...俺って、そんな老けて見える?」
「えっと...そんなわけじゃなくて...。」