母は話を聞いて何も言わなかったがただ父親とは和哉とはもう会わないでほしいとだけ圭織に言った。

圭織には辛いことだったが仕方ないことだと思った。

妖子は栄養状態がよくないのかあまり元気が無い。

母は圭織に母乳が足りないのならミルクを足してみることを勧めた。

圭織は素直にそのことばに従った。

父は仕事から帰るたびに妖子の服やおもちゃを買ってくる。

ちょっとギクシャクしたところもあるけど普通に受け入れて新しい生活に入っていくはずだった。

圭織が母の言ったことを破らなければ…

その日は母が買い物に出ている間に圭織は洗濯物を取り込んでいた。

妖子はぐっすり眠っていた。

゛圭織、圭織…″

呼ぶ声がする。

懐かしい声がする。

゛和哉…?″

出会ってしまった。

家の裏口に両手を傷だらけにした和哉が着のみ着のままで立っていた。

゛逃げてきたんだ。もう僕は生きていけない。君の顔を最後に見たくて…田中さんから君が家に戻ったと聞いたから…″

゛和哉…和哉…この手…もう絵は描けないの?何故こんなことになったの?私たちは幸せにはなれないの?″

涙が止まらなかった。

二人は抱き合った。

母が買い物から戻ったときは圭織は妖子をあやしていた。

いつもと同じように食事をし、話をして寝た。

翌朝、妖子が泣いていた。

いつもなら圭織があやしているはずなのにいつまでも泣いている。

母は胸騒ぎがした。

おかしい…

あわてて圭織の部屋に走り込んだ。

妖子が一人で泣いている。

封書が三通残されている。

゛あなた!″

父を呼ぶ。

父は走ってくる。

封書には〈お父さんへ〉〈お母さん〉〈妖子へ〉と宛名があった。

電話がなった。

田中巡査からだった。

圭織が妖子と心中しようとした川から圭織と和哉の死体が挙がったという。

゛何故こんなことになるんだ…″

父は嗚咽をもらして泣いた。

母は呆然と妖子を抱いていた。