「きれいな声だなあ」 彼は唐突に喋った。 男からは表情が窺い知れないが、どこか状況に似合わない胸騒ぎがする。 きれい、だなぁ。 月にでも言うかのように。 「ああ、さっきの? うん僕もすごく綺麗な声してると思うよ」 「きれいだなぁ」 「そうだね」 子供をあしらうかのように、男は優しく、でも簡単な返答をした。 無線機の奥の声が綺麗だとか、そんなことはどうでもいい。